コスモ参入「風力発電」に風穴 / 日経BP

 風力発電5位のエコ・パワーを、コスモ石油が荏原から買収した。これまで力の弱かった非電力系事業者に役所とパイプの太いコスモが加わる。欧州はもとより、米国や中国にも及ばない日本の風力発電業界に“風穴”が開く可能性も。

 最も安価な自然エネルギーは「風力発電」だというのは世界の常識だ。太陽電池で1キロワット時発電するのに約49円かかるが、風力なら約10~14円で済む。自然エネルギーの導入機運が高まる中、各国政府は真っ先に風力発電の導入促進策を取ってきた。

 一方、日本政府が手厚く支援しているのは太陽電池。風力に対しては、「日本には良い風が吹く適地が少ない」と冷たい。発電能力でトップの米国が2009年末に3516万キロワットなのに対して、日本は10分の1以下の206万キロワットにとどまる。米国を追うドイツに、中国が肉迫している。

 日本で風力の導入が進まないのは、風力発電を手がける事業者を取り巻く環境が過酷だからだ。経営状態が厳しい風力発電事業者も多い。これまでも上位3社を除いては、たびたび身売り話が浮上していた。

 そしてついに、業界5位の風力発電会社エコ・パワー(東京都品川区)の売却が決まった。3月に稼働する風力発電所を加えると、4位になる見通しだ。親会社の荏原が同社株の99%を1円でコスモ石油に譲渡すると発表した。コスモは約100億円の負債も引き受ける。コスモの周布兼定・常務執行役員事業開発部長は、「1基数億円が風車価格の相場。100億円の負債引き受けで130基を買えると思えば、高い買い物ではない」と説明する。

 1997年に設立したエコ・パワーは、国内の風力発電事業者としては老舗的な存在。全国25カ所に130基の風力発電機を保有。老舗だからこそ風車の故障に悩まされ、営業赤字が続いていた。

 同社が風力発電に参入した当時の風車は性能が良いとは言えなかった。欧州の風が真っすぐ吹くのに対し、山がちな日本の風は渦を巻くように、様々な方角から吹く。今でこそ日本の風の特性に合った風車を製造するメーカーが存在するが、当時は欧州の風に合う海外製風車しかなかった。その結果、故障が頻発。しかも、自社で補修できないブラックボックス部分が大きいうえ、部品の取り寄せにも時間を要した。最近では千葉県の銚子にある風車7基が1年間停止していた。

 風力発電事業は、発電した電力を地域の電力会社に買い取ってもらうことで収益を上げる。風車の稼働率が下がれば収益性は悪化する。国内の風車の稼働率は平均で20~30%だが、エコ・パワーはこれを下回っていた。

値上げに規制、課題山積

 最近の風車は、故障は減ったが、エコ・パワーをはじめとする国内の風力発電事業者にのしかかる“重荷”はそれだけではない。

 まず第1がコストだ。風力発電事業のコストの大部分を占める風車本体や建設費用などの初期コストが高騰しているのだ。鋼材などの材料費や、部品のコストが上昇。97年には1キロワット当たりの建設費は20万円だったが、2008年には1.5倍の30万円になった。

 初期コストの上昇分は、電力会社への電力の販売価格ではカバーできていない。風力発電した電力は、自然エネルギーの中では安価とはいえ、火力発電や原子力に比べると計算上高くなる。商業ベースでは導入が進まないため、政府は「新エネルギー等電気利用法(RPS法)」で電力会社に、毎年一定量の自然エネルギー電力を買い取るよう義務づけている。

 RPS法は、電力としての価格に、環境配慮やエネルギー自給率の向上などの価値に相当する費用を上乗せした価格で買い取るように定めている。だが、買い取り価格の決定には電力会社の意向が働くため、コストの増加分を補えるような値上げはなかなかできない。

 第2の理由が規制だ。風車建設は、森林法や航空法、道路法や農地法でがんじがらめに規制されている。良い風が吹いている場所が、規制で利用できないこともままある。

 社会的な合意形成も必要だ。風車は、長さ数十mのブレード(羽根)が回転するため、風切り音がする。建設の前段階から地元との友好関係が構築できていないと、思わぬ騒音問題に発展してしまう。同様に、景観問題が取り沙汰されることもある。

 最大の問題は、電力会社の電力網に風車をつなぐ「系統連携」に関するものだ。風力発電は風任せなので、発電量が大きく変動する。電力の安定供給を至上命題とする電力会社にとって、風力発電は頭の痛い存在だ。

 電力会社は、電力網に流れ込む電力量の変動を吸収するため、火力発電所の出力を調整している。火力発電所の調整能力以上に風力発電による電力が入ってくると停電する可能性があるため、風車との系統連携には慎重なのだ。

 しかも、良い風が吹く北海道や東北は電力需要が小さく、電力網の容量が小さい、という問題もある。電力会社は様子を見ながら風力を受け入れるため、事業者が風車を建てたくても、簡単には建てられない。ある電力会社が10万キロワット分の風力の募集をした際に、風力発電事業者から100万キロワットの応募があった例もある。

 全国10ある電力会社がバラバラに電力網を運用する形態を見直せば、自然エネルギーの導入拡大につながるが、電力会社の抵抗は大きい。日本には今の厳しい状況で採算の合う風力発電の適地が少ないのだ。

 コスモが風力発電に参入するのは、将来の収益の柱を育てるのが狙いだ。同業の新日本石油や昭和シェル石油が太陽電池や燃料電池などの環境事業に巨額の投資を決める中、同社は足元の石油販売事業に注力してきた。だが、国内の石油需要は頭打ちで、「予想以上に需要の減少スピードが速かった」(周布常務)ことが、将来への危機感を高めた。同社にとってエコ・パワーの買収は、風力への“本気度”の表れと見ていいだろう。

 コスモの参入は、国内の独立系風力発電事業者にとっても朗報と言えそうだ。発電量で国内トップのユーラスエナジーホールディングス(東京都港区)は東京電力が60%出資しており、第3位のJパワーも電力事業者。「風力発電の導入拡大に積極的ではない電力会社に配慮せざるを得ない」(関係者)ため、事業環境の改善に対して政府や電力会社に十分な働きかけができてきたとは言いにくい。

非電力系の発言力が高まるか
 両社以外は非電力系の事業者だが、いずれも収益力が十分でないところが多く、発言力は弱かった。実質は、「(第2位の)日本風力開発の孤軍奮闘が続いていた」(関係者)のが実情だった。

 現在、資源エネルギー庁は、太陽電池以外の自然エネルギーも対象にした、固定価格買い取りの制度設計を進めている。その過程で、国内での導入促進に必要な支援策について各業界団体から要望を聞いた。各団体は新規参入を促し、事業者が継続的に発電事業を実施できる条件を提示したが、風力だけは違った。「電力会社へ配慮する事業者とそうではない事業者の折り合いがつかず、業界としての意見を集約できなかった」と関係者は言う。

 発電コストの高い自然エネルギーの導入は、政策支援や電力会社の理解なしには進まない。日本にはまだまだ活用されていない風力資源が存在する。本業の石油事業で資源エネルギー庁との関係が深いコスモの参入が、日本の風力業界に風穴を開けるかどうか、注目される。

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