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コーヒー一杯無料のキャンペーンは昨年から何度か行われており、私も話には聞いたことがあった。「まだやっているな、どんな効果があるのだろう」と思いながら店内をのぞくと、意外にも紙コップを手にしたビジネスマンの姿が目立った。

2009年12月期の日本マクドナルドホールディングスの連結決算は、営業利益が前期比24.0%増、純利益も同3.4%増となり、2年連続で最高益を更新した。そんな絶好調の業績を支えているのが、先のコーヒー無料サービスや、「100円マック」なのである。

「景気が悪いから外食を控えよう」という人が増え、外食産業全体は厳しい状況だ。しかし懐がさびしいからこそ、「無料なら飲みたい」「100円なら食べたい」という人が現れる。

もちろん無料コーヒーや低価格商品だけでは、経営は厳しい。しかし、そうした商品に引かれて来店した客の全員が、無料コーヒーを頼んだり、100円マックだけを買うのかというと、決してそうではない。

無料コーヒーを貰った人の一部は1個・300円前後の「フィレオフィッシュ」や「ビッグマック」を買うかもしれない。

また、100円マックを狙ってきた人は、何かドリンクが欲しくなるかもしれないのだ。なぜかというと、人は何かサービスなどを受けると、「お返しをしなければ悪い」という心理が働くからなのである。これを「返報性の原理」という。この原理を利用して売り上げを伸ばす方法は、スーパーや家電量販店などでも見ることができる。また、人間は我慢していた欲求を爆発させることがある。先ほどのように無料コーヒーに惹かれて店に入った途端、「たまにはちょっと贅沢しよう」という心理が頭をもたげるのだ。そこに返報性の原理が加われば、「よっしゃ、ダブルクォーターパウンダー・チーズバーガーも一緒に頼もうか。500円でもお釣りがくるし……」となる。

来店した客の1割が利益率の高い高額商品を必ず買ってくれるものとする。当然、客が多いほうが売り上げは増える。だとしたら客を多くするには、多くの人を引き込むようにするのが得策だ。それが今なら「ロープライス商品」なのである。

具体的に需要曲線を用いてシミュレーションしてみよう。100円の商品を用意すると250人の客が集まり、そのうち1割の客が300円の商品を買う。すると全体の売上高は「250×100+25×300」で3万2500円になる。一方、50円の商品を用意した場合は倍の500人の客が集まるので、「500×50+50×300」で4万円にハネ上がる。

確かに低価格商品だけでは経営は厳しい。でも、これらで客を引き寄せて一部の客が高いものを買ってくれれば、売り上げアップが十分に期待できるのだ。

とはいうものの、一つ忘れてはいけないことがある。100円マックなど、世間の常識よりはるかにリーズナブルな価格で集客できるのは、「マクドナルド」というブランドが確立しているからなのだ。無名の「しばやまバーガー」という店が100円バーガーを販売しても、「原材料に何を使っているのかわからない」と警戒され、むしろ客足が遠のくだけだろう。

また、マクドナルドが無料コーヒーや100円マックなどを大胆に投入できるのも、POS(販売時点情報管理システム)などを通して、過去のデータを蓄積し、客の動向を的確に掴んでいるからなのだ。つまり、来店した客の何割が高額商品を買うかという経験上の数値を持っているから可能なのである。

※すべて雑誌掲載当時

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